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『土方の女を捕縛?拷問にかける?
冗談じゃないっ。どう言うつもりだ稔麿め。』
その一報を受けた桂は,“すぐ戻ろう。”とだけ口にした。
一切の感情は顔に出さず,出先から足早に藩邸への帰路につく。
どう考えても土方の女は三津だ。
でも吉田が三津に拷問なんか出来るのか疑問だ。瘦面美容院
『考えても埒があかない。帰って真相を確かめねば。』
「桂先生っ!ちょっ!待って!!」
息を切らしながら必死について来るお供の藩士の存在なんかに目もくれず,先を急いだ。
どうか何事もなく,無事でいてくれ。
そう願いながら歩き,藩邸の近くまで来るとほぼ走っていた。
「只今戻った。土方の女とやらは…。」
「こちらです。」
息が上がってしまったのを必死に隠して,“土方の女”の居る部屋へ向かう。
一度大きく息を吸ってから,障子に手をかけた。
「……失礼。」
逸る気持ちを抑え込んで部屋を覗くと,丸くなった黒い瞳と視線がぶつかった。桂は一歩,二歩と中に踏み込んだ。
「無事で何より……。」
大きく大きく息を吐いて三津の頭をそっと抱き寄せた。
「桂さん……。」
桂の温もりが他の何よりも三津に安心感を与えた。
「先生…そいつは土方の女であって……。」
様子を見に集まった藩士達は唖然としてしまう。
「土方の女?何を言うか三津は私の大事な人だ。」
こんな形で会うのは桂にとっても不本意だったが,自分のモノだと公言出来る事が何より嬉しい。
「二人で話しがしたい。みんな席を外してくれないか。」
「それはなりません。その娘の素性が定かでない!
お言葉ですが先生は騙されてるのではありませんか?」
三津は眉を垂れ下げて桂を見上げた。
それに気付いた桂はやんわりと笑みを浮かべて優しく頭を撫でてやった。
「……では私が見張りにつきましょう。娘が桂さんに変な事をしないか。桂さんが娘に余計な事を言わないか。」
にやりと口の片端を持ち上げた吉田が真っ直ぐに桂を見た。
桂は表情を崩さず吉田を見つめ返す。
「それで皆が納得するなら私は構わない。」
桂は三津を抱き留めたまま,ぐるりと周囲を見回した。
腑に落ちない顔をしながらも,何も言わせないとする吉田と桂の威圧感に負けた。
「すまないね気を悪くしたろ……。」
藩士達が居なくなって,桂は盛大に溜め息をついた。
「私は全然……。」
三津は小さく首を左右に振った。
それよりも自分のせいで桂が悪く言われてしまう。
そっちの方が三津には辛い。
「それより一旦離れたら如何です?」
「あっ。」
三津は吉田と目が合うと顔を真っ赤にして俯いた。
「照れる事はない,私と三津の仲じゃないか。」
『馴れ馴れしいと思ったけどやっぱりそう言う事?
俺が居ない間に手を付けたって訳か,この親父……。』
吉田は腕組みをしたまま冷めた目で二人を見ていた。
「あの,いつになったら帰れるんですか?」
三津は桂の胸を押しやって,二人の顔を交互に見た。
「不逞浪士に攫われて無傷で帰ったら変に思われるだろ?」
「そっか…。やっぱり拷問?」
吉田の冗談に三津は泣きそうな顔になる。
「俺にそんな趣味はないよ。帰らなきゃいいだけの話。
あといい加減離れて。」
痺れを切らして自ら二人を引っ剥がしに行った。
にいる妹と被ってしもうた」
ふ、と優しげに目を細めた吉田を見た瞬間、桜花は胸に手を当てた。どきりと鼓動が大きく跳ねたのだ。
今のは何だろうと思いつつ、初めての感覚を誤魔化すように口を開く。
「こ、言葉……。やはり、瘦面美容院 吉田さんも高杉さんと同じ出身なのですね」
「ん、ああ。なるべく隠しているんだけどね。言葉で捕まるのは間抜けな気がして」
吉田はそう言いながら大きく背伸びをし、かみ殺すような欠伸をした。
「眠い、ですか」
「え、ああ……。いや、何だろう。気が抜けたのかな」
禁止されている京へ潜伏してから、吉田はこの日まで毎日気を張りつめていた。いつ見付かって踏み込まれるか分からない身の上だ。そのため眠りは浅く、しかも刀を抱かねば眠ることなど出来ない。
ましてや外でこのように欠伸を漏らすことなどしたことが無かった。
「分かります。その上暖かくなって……ふぁ、……きましたものね」
困ったように笑いながら、桜花も欠伸を漏らす。
夜はあまり寝た心地がしなかった。寝て起きたらまた別の世界へ飛ばされているのではないかという、不安に襲われるのだ。
助けてくれたという安心感が根底にあるのか、吉田の隣はまるで陽だまりに包まれているかのように、心地が良い。気を抜けばたちまち寝入ってしまいそうだった。
その時、ふと軒の影から太陽が顔を覗かせ、眩い光が射し込む。
「気付かなかったが、君の目は綺麗だな。こうして見ると、お天道様の色に見える」
「お、お天道様……」
そう言われ、妙に気恥ずかしくなった桜花は立ち上がった。すると、吉田の視線が今度は刀へ注がれていることに気付く。
「……君、この刀。もしかして、"薄緑"か」
思いもよらぬ言葉が出てきたことに、桜花は目を見開いた。
「そう、です。でもどうしてそれを……」
桜花の問い掛けに、吉田は立ち上がると自身の腰に差してある刀を鞘ごと抜く。そしてそれを両手で持ち、前に差し出した。
「僕のこの刀、鬼切丸という。…………そうか、これで合点がいった。これを見てくれるか」
吉田はぶつぶつと何かを言うと、刀を樹に立て掛け、突然羽織を脱いだ。そして今度は躊躇いもなく、に手をかけてそのまま開く。すると鍛え上げられた胸板や腹筋が露になった。
桜花は突然のその行動に目を見開き、みるみるうちに顔を赤くした。池の鯉のように口をパクパクさせると顔を背ける。
「なっ、な、な、何やっているんですか!」
「男同士なのだから照れることは無いだろう」
「そ、それは……そうなのですが」
桜花は悶々としながらも、お前は男だと己に言い聞かせながら吉田を見やった。
すると大きく開いた胸元、取り分け右胸に注意が引かれる。吉田の右胸には桜花のそれと全く同じ痣のようなものが在ったのだ。
「あ……その痣……! 」
「やはり見覚えがあるのか」
「は、はい、同じものが此処に」
桜花は戸惑いの表情を浮かべながら、自分の左胸へ手を当てる。
「そう、君は左に……」
見せてくれと言おうとしたが、先程の桜花の反応が脳裏をぎった。たかたが男の素肌を見ただけであのな反応は何なのだろう。
吉田は桜花をした。まだその頬や目元にはほんのりと赤みが差し、何処か愛らしさを感じさせる。無意識のうちにごくりと息を呑んだ。「……吉田さん?」
すると、琥珀色の瞳が心配そうに覗き込んでいることに気付く。吉田はハッとしたように視線を
わせると、閉口した。そして自身の乱れた着物を整え、再び羽織に袖を通す。
「……とにかく、この痣は妖刀を持つ者の証なのではないかと思う。先程、追い掛けられた時にこれが疼いて仕方が無かった。……もしかすると、引き付けられたのではないかな」
そう言われれば、桜花にも心当たりがある。それはあの左胸の疼きのことだ。同じ妖刀持ちである吉田が近付いてきたから反応したという訳だろうか。
そのような摩訶不思議なことがあるのかという気持ちと、この現象が自分だけではないことにホッとする気持ちがせめぎ合った。
そしてある事が疑問として脳裏に浮かぶ。
「どうして、これが薄緑だと分かったのですか」
「ああ、それは……」