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二人でご飯を作って二人で食べる。たったそれだけの事が嬉しいと文はにっこり笑った。
「こう言うのもなんやけど三津さんがこっちを選んでくれて良かったと思う。入江さんはしばらく寂しいやろうけど。」
「九一さん会いに来るし文も書くって言ってくれました。」
「あの男が文書くって?はぁー人間変わるもんやねぇ。」 瘦面美容院
入江なら信用しても大丈夫だろうから楽しみに待っときと笑った。
「落ち着く頃に来るって言ってはったから年内に来はるかどうかですかね。」
早いもので暦は神無月。あと二月も過ぎれば年が明ける。
「心配せんでも待てんくてすぐ来るわ。」
文はからから笑った。自分より昔から入江を知ってるからきっとそうなんだろうなと三津も笑った。
「入江さんは旦那さん候補になった?」
「まだ何とも……。寂しさとかあの人を忘れたいからって気持ちに流されて選ぶのは違うと思うから。」
「真面目やねぇ……。でも入江さんの気持ちに真剣に向き合っとるって事よね。」
これだけ互いを思いやれていて何で恋に発展しないのか文は不思議で仕方ないが,その原因が桂にあったとしたら今回はひょっとしたらひょっとするかもしれない。
『あとは三津さんが上手く木戸様を吹っ切れるかどうかやな。』
『三津は……萩に向かったんだろうか……。』
桂は阿弥陀寺の縁側に腰を掛けて三津の残した簪を手にぼーっと夜空に浮かぶ月を眺めた。
「静かに忍び込むのやめてくれへん?不審者かと思うわ。」
「ちゃんとセツさんに声はかけたよ。」
不機嫌な顔で隣りに腰を掛けた幾松に驚かせたならすまないと謝った。
「それ……お三津ちゃんの?」
「そう……私が初めて彼女に贈った簪だ。出逢ったきっかけの……腕の手当のお礼にと。これを見た時これを挿してる彼女が目に浮かんで思わず買ってしまったんだ。」
つけてる姿は数える程しか拝めてないと自嘲した。
「それだけ大事にしてたモンなんでしょ……。」
「その大事にしてた物を……置いて行った。完全なる決別だ……。」
なのに諦めきれない。駄目な男だろ?そんな奴に構うなと幾松を突き放した。
「ホンマの決別なら木戸はんから貰ったもんは全部置いてったやろ。もし売って暮らしの足しにする為に持ち出しとるんならそれも持ってったはずやで。
でもそれを置いてったのはもしお金に困っても,それだけは売りたくないからちゃう?」
「……三津は私が贈った物を売るような子じゃない。」
君とは違うと言われ幾松は桂の後頭部を叩いて立ち去った。幾松と入れ違いで入江が笑いながら桂の隣りに腰を掛けた。
「今のは幾松さんに失礼ですよ。幾松さんがいつ貴方からの贈り物を売ったんですか。」
喉を鳴らす入江を桂は横目で睨んだ。
「……君は余裕だな。本当は三津の居場所を知ってるんだろう。」
「知りませんよ。三津は私にも黙って出て行ったんですよ?この意味分かります?
傍に居て甘やかすとずっと言ってたのにそうさせてもらえなかった。私の役目は拒絶された。間接的に私は三津に捨てられたそ。
私に泣きついて私のモノになれば良かったのに。それもせんと一人で姿消して……。」
入江は大きな溜息をついて俯いた。間接的に捨てられたと言う台詞は桂にぐさりと突き刺さった。横目で桂の様子を窺いながら入江は嘘を吐き続けた。
「馬で行けるとこまで行ったけど三津の姿はなかった。どこかで道に迷ったんか,攫われたんか嫌な考えばっか出てくるけど,見つけたところで傍で優しくされるのを拒むなら私は三津には近付かれん……。
三津はその簪持って木戸さんが迎えに来るのどこかで待っちょるんやないん?
やけぇ早く問題始末して探し出しちゃり。」
入江は桂の顔も見ずにそれだけ言って背を向けた。
『何で私はこんな事しちょるんかねぇ……。』
今度こそ三津を振り向かせる好機なのにやっぱり二人に最悪の結末は似合わないと思う自分がいる。それは幾松も同じなんだろう。
でもまだ早い。もう少し三津にも冷静になる時間が必要だ。